デイリーレポート(2022年12月22日配信)

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WRITER 山中康司
代表理事
金融リテラシー協会は、日本の金融立国化に貢献し、日本の新たな未来を創造するために設立された協会です。 詐欺にあわない知識、お金を活かすための知識、ふたつの知識の普及・啓発を行い、国民生活の向上と日本経済の発展に貢献し、金融経済教育の分...

本日朝の放送に使った台本をレポートに代えさせていただきます。

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注目通貨ペア 「ドル円の売り」

*ファンダメンタル
2022年を通してのテーマとなっていた日米金利差拡大によるドル買い・円売りという大前提が変化する兆しが20日の日銀会合で発表されました。長短金利操作付き量的・質的緩和(イールドカーブコントロール、以下YCC)の変動幅変更です。今回の決定でYCCによる10年債の変動幅は0.25%から0.5%へと拡大、指値オペの水準も0.5%となりました。

黒田日銀総裁は引き締めでは無いと言ったものの、市場参加者はそうは取りません。たしかに2016年に導入した当初は長期金利の低下によるイールドカーブのフラット化を避ける目的でしたが、その後金利上昇圧力が高まる中で実態は変化し、長期金利のキャップという役割に転じました。当初は0%程度であったものが0.25%になった段階で緩和政策の補完的な役割が強まったと言えます。

それが今回0.5%へと拡大されたわけですから、緩和政策の一部が変化したと見られるのは当然で、直後の金融市場は金利上昇、株安、円高で反応しました。特に為替市場はこれまでの金利差拡大という前提が変化する最初の兆しと考え、1日の値幅は7円近い円高となったわけです。

米国の政策金利はあと0.5%上昇して2023年3月にピーク金利につけることが織り込み済みですが、日本の政策金利だけは変化しないというのがこれまでの日銀のスタンスであり、市場参加者もそう考えてきました。しかし、日本の総合CPIが先月発表された10月分で3.7%にまで上昇してきたことで、日銀内でも現状維持の見直しが進んでいたと見られます。

また12月に入ってから黒田総裁後の政策点検、政府と日銀との共同声明見直しといった出口戦略を示唆するような記事が連続したことも、火の無いところに煙は立たずで20日のYCC変更、さらには国債購入減額、マイナス金利解除といったあたりの話が政府(自民党、財務省)、日銀の反黒田派あたりから漏れ聞こえてきたことのようにも思えます。3日に議事録が出た12月2日の財務省の国債発行に関する会合で日銀が引き締めに転じる可能性も検討されていたことも個人的には気になっていたことでした。

このように、多くの市場参加者にとって大いなるサプライズであったこと、2023年4月にも一段の緩和解除という思惑が出ていることを考えると、しばらくはドルの戻り売りが出やすくならざるを得ないというのが年末に向けての地合いとなりました。

*ポジション
シカゴの通貨先物のポジションでは着実に円売りポジションが減少してはいるものの、12月13日時点ではまだ約5万3千枚の円売越しです。今回の日銀のYCC変更を受けて、一段と減っていると思うものの、更なる減少余地があることもドルの上値を抑える要因となるでしょう。

*テクニカル
テクニカルには年初来高値151.94レベルが大転換点になった可能性が高くなり、年単位での高値となったと見る向きも今後増えていきそうです。2022年の年初来安値113.48と高値151.94との半値押し132.72は、コロナショック後の安値と2022年高値の38.2%押し132.54とも重なり、いったんはどう水準近辺でのもみあいを挟みそうですが、次はとなるともう一段の下、130円の大台よりも年初来安値と高値の61.8%押しとなる128.18がターゲットとなります。

今すぐでは無いにせよ、早ければ年末年始にも見に行く可能性があることから、もみあいとなりやすい132円台(今です)は今後の円高再燃を考えての戻り売りの踊り場を提供していると見て良いでしょう。

*結論
円一人負けからの変化が政府日銀による介入、さらには日銀の政策変更で大きな転換の流れが確定したように思います。ここは目先の振れに翻弄されないサイズのポジションで、132.50レベルよりも円安水準ではドル売りを考えるチャンスであると考えます。



配信日:2022年12月22日